【装甲悪鬼村正】

～Fullmetal demon Muramasa～

-善悪相殺-

あらすじ

劔冑（つるぎ）――それは魂が宿る鎧。空を舞い、鋼を断つこの世で最強の兵器であるそれを纏う者は畏怖と敬意をもって武者と呼ばれた。

ここ、大和王国では、白銀の劔冑を纏った伝説の武者の噂がまことしやかに囁かれていた。無差別大量虐殺を繰り返す武者――その名は銀星号。

冷酷無比に人々を虐殺していく魔王の恐怖は、次第に大和中に広く伝播していく。

その銀星号に立ち向かう武者がひとり。鮮血さながらに紅い劔冑――村正を纏った彼は、過去に因縁を持つ宿敵・銀星号を追う傍ら、悪逆非道を働く代官や連続殺人犯をもその刃をもって断つ。

だが、彼は決して自らを正義と名乗ることはない。なぜならば、彼の劔冑は勢洲右衛門尉村正。かつて大和を阿鼻叫喚の地獄に変えた、呪われし劔冑に他ならないからだ。

――これは英雄の物語ではない。英雄を志す者は無用である。

チェックポイント！

強烈なメッセージを作中に潜ませた、スラッシュダークアドベンチャー

数あるエロゲーの中でも、本作ほどメッセージ性が強いものは他に類をみない。

力、運命、愛、憎しみ、そして――正義。

重い十字架を背負った主人公が、銀星号を倒すというたった一つの目的を果たすまで、数々の戦いを繰り広げ、そのたびに同じ数だけの葛藤を経験する。

並のライターにはこの作品を創り上げることなどできなかっただろう、はっきり言って上級者向けの作品である。

全篇に渡って暗い展開が繰り返されるが、主人公に深く感情移入できるために没入感が半端なものではない。

人生で一度くらい、徹底的な”闇”に浸ってみるのも悪くないだろう。

善悪相殺の呪いとは

本作の主人公、湊斗景明はとある呪いを背負っている。――善悪相殺、それは争いの醜い本質を白日の下に再現した”真実”である。

善悪相殺とは――自らの正義のために相手を殺すことは、相手の正義を殺すことでもある。それすなわち、善と悪をもろともに断つことである。

例えば、とある村に住む泥棒が村中の家に忍び込み、次々と食べ物を盗んでいた。

憤慨した村の人々は、協力して泥棒を罠にかけ、最後には殺してしまった。

しかし、ここで明らかになる真実。その泥棒は、病気の母親のために自らの稼ぎだけでは買えない栄養価の高い食べ物を盗んでいたのだ。

つまり、村の人々は泥棒という”悪”と、母親のために自らの手を汚してまで懸命に食料を集めようとした息子という”正義”をもろともに殺したのである。

これすなわち”善悪相殺”。相手を敵と定めて斬るは、同時に相手の”正義”をも斬ることと知れ。

この理を世に知らしめるべく、主人公に課せられた呪いとは”自らが敵と定めた相手を殺した場合は、自らが味方と定める者も殺さなくてはならない”ことだ。

なんとも残酷な呪いである。

世の中の見方が変わる

この作品が他の作品と違うところは、あまりにも強烈なそのメッセージ性であることはすでに述べた。

普通の感受性を持っていれば、この作品をプレイした後の自分を取り巻く世界は少し違ったものになるだろう。

職場で自分に嫌味を言ってくる上司、プレゼントを当然のように受け取りお礼を言わない恋人、いつもクレームをつけてくる客。

本作のメッセージを受け取った後では、短絡的に彼らを”悪”と断定するようなことはなくなるはずだ。

――上司はコミュニケーションが苦手で、四苦八苦しながら指導をしているだけだった。
――恋人はプレゼントではなく、言葉や行動で愛情を示してほしかった。
――クレーマーは、家庭でのけ者扱いされており、誰かとコミュニケーションがとりたかった。

そんな思考ができるようになれば、世の中はぐっと生きやすくなるはずだ。