あらすじ

主人公、国崎往人は手を触れずに物を自由に動かす力「法術」を使い、人形を動かす芸を糧にさすらいの一人旅をしていた。

彼の目的は幼少の頃に死んだ母親から聞かされた「この空のどこかにいる翼の生えた少女」に出会うこと。しかし、実際は必死に捜し求めているわけではなく、頭の片隅に留めている程度の存在であった。

さすらいの旅を続けていたある日、とある海沿いの田舎町で彼は神尾観鈴という不思議な少女に出会う。

そんな彼女が語る「よく見る夢」と自身が探し求めている「この空のどこかにいる翼の生えた少女」に何らかの共通点を感じた彼だったが……

チェックポイント！

泣く子も黙る一流ブランドKey作品

エロゲーに少しでも興味がある方なら、その名を知らぬ者はいない、エロゲ界の覇者メーカービジュアルアーツのブランドKey。

「CLANNADは人生」の、あのKey作品だ。

本作はKeyの代表的三部作の２作目の作品である。

コンシューマー版を始め、アニメ化、漫画化、映画化を果たしている。

クセのある作品、この個性をどうとらえるか

本作は非常にクセのある作品である。その原因となっているのが３人の個性的ヒロインである。

この３人は、そのあまりに強い個性から「ヒロインが池沼」と呼ばれてしまうほどだ。

「がお……」といった、狙いすぎな萌え口癖で個性づけをしているため、人によってはうざいと感じるかもしれない。

上記の口癖は正ヒロイン観鈴のものだが、残りの二人、霧島佳乃、遠野美凪も相当にクセがある。

時代を飛び越えた、早大なスペクタクル作品を書きたい人へ

本作は、現代が舞台の第一部「dream編」1000年前の時代が舞台の第二部「Summer編」そして再び現代に戻る第三部「AIR編」の三部構成となっており、「1000年前の呪い」を軸に時代を超えた一大巨編を描く。

第二部の「1000年前」は平安時代の末期に当たり、当時の社殿や官位の設定もかなり正確に作られている。

時代物のライトノベルのヒット作としては、「織田信奈の野望」 などがあるが、こういった作品を書くにはかなり正確な時代考証が必要になる。

そもそも、作品を世に出すというのは、その作品で描いたあらゆる分野の専門家が目にする可能性があるということなのだ。

筆者の苦い経験なのだが、手術シーンを描いた自作のライトノベルを投稿サイトで発表したところ、医大生（と名乗る）方から医療知識がお粗末すぎると、壮大なダメ出しを受けたことがある。

そのダメ出したるやすさまじく、患者が手術室に運び込まれるまでの描写からメスの切れ味にいたるまで、１万文字以上に渡って詳細な指摘が入り、そのあまりのショックに一週間ほど小説が書けなくなった。

これは極端な例だが、作品を発表するということは、たとえ素人の投稿サイトであってもその分野の専門家が常に厳しい目を光らせている中に創作物を放り込むことだと思ったほうが良い。

どれほどニッチな分野にも必ず専門家が存在している。こんな辺境なテーマの専門家は、ライトノベルなど読まないだろうなどという甘い考えで作品を発表すると、批判の矢が雨あられに降り注ぐ。

作品を書くという事は、創造的でありながら詰め将棋に似たところもあるのだ。

想像力の翼を最大限に広げながら、一方では細かい部分で突っ込みが入らないように一つ一つ入念にに下調べを行う精密さが求められる。作家とは、頭脳労働の頂点に君臨する職業ともいえるだろう。

本作の平安時代編には、ネット上で目立った突っ込みはない。もちろん、エロゲーなのだから多少のアレンジはあるのだが、作品世界を崩壊させない最低限の時代考証はクリアしていることになる。

そしてその「最低限」は決して低いものではない。

本作をプレイする時は、二部の「Summer編」に重点を置いて、時代考証の重要性を十分に認識しよう。


また、あなたが歴史マニアで「平安時代」に対して人並み以上の知識があるならばなおよい。

「平安時代」に詳しいならば、本作の「Summer編」をプレイすれば他の分野の作品を書く時も、どの程度の知識があればマニアを納得させることができるのかの指標を得ることができる。

それぞれの作家に、それぞれの「得意分野」はあるだろう。しかし、自分の得意分野の作品ばかり書いていては、いずれ飽きられる。

得意分野を絶対の柱にしながらも、他分野に手を広げて新しい作品を次々と発表しよう。

生き残っている売れっ子作家とは、常に好奇心を失わず、新しい分野へ果敢に切り込んでいく生粋のパイオニアなのだ。

まとめ

いかがだっただろうか。
作家とは忍耐力が必要な職業だ。

クリエイティブな側面ばかりが強調されて、自由奔放で楽しそうなイメージばかりが先行しているが、作業の９割以上は「調べもの」だと思っておいたほうが良い。
最近アニメが終了した「のうりん」 の作者も、農業高校が舞台の同作を書くために１年間にわたり農業高校の取材を敢行した。

取材の中で、在校生たちと盛んに交流し、農業高校の世界を肌身にしみるまで体験しつくしたのだろう。これには忍耐力に加えて、世代の違う人々と心を通わせるコミュニケーション能力も不可欠だったはずだ。 調べものは図書館やパソコンを使って一人で情報収集するだけではなく、こういった人々との交流による取材も含まれる。そういった”体験”が伴った調べものならば、同時にネタをストックできるという利点もある。

「オタクである」というのは、作家を目指す人にとって重要な資質ではある。しかし、一方でリア充気質も同時に持ち合わせている必要がある。 クリエイティブでありながら職人気質、オタクでありながらリア充。こういった相反する性質の両方を持ち合わせいてる人間はそうそういるものではない。

作家という職業は、やはりハードルが高い。

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