あらすじ

卒業記念に一人アメリカに観光旅行に来ていた主人公の少年は、偶然迷い込んだ路地裏で闇組織「インフェルノ」の暗殺の現場を目撃してしまう。

そのまま彼は組織の人間に拉致され、薄暗い地下室で目を覚ます。

間もなく処刑されるはずだった彼は、生命の危機に直面するや否や常人では考えられないような超反応を見せる。

その行動に、暗殺者としての才能の片鱗を見た「インフェルノ」の幹部「サイス・マスター」により、「インフェルノ」の暗殺者として生きる道を提示される。

一介の学生だった彼は当然抵抗するが、なすすべもなく暗殺者としての訓練を施されると、秘めたる能力をみるみる開花させていく……。

チェックポイント！

虚淵玄（うろぶち げん）の原点

今や押しも押されぬ人気シナリオライターとなった虚淵玄の原点とも言える作品である。

今現在の彼の作品と比べると、文章、全体の完成度は荒削りなものの、人気ライターの初期の作品をプレイすることは創作を志す者にとって必ずや肥やしになる。

初期の作品には、その作家の特色が色濃く現れるからだ。

ニトロプラスの処女作

本作は、人気エロゲーメーカー「ニトロプラス」の処女作でもある。

まだメーカーとしてもエロゲーのイロハがわかっていなかった頃の作品のため、効果音がフリー素材の加工品であることや、宣伝媒体がミリタリー雑誌であったりするなど、試行錯誤していた時代の空気がひしひしと感じられる。

しかし作品の完成度は高く評価され、結果的に目標だった２万本の売上を大きく上回る２万８千本のヒット作となった。

殺し屋、裏の組織が描きたい人へ

秘密結社、殺し屋、裏社会、暗殺……身震いするほどカッコいい厨二ワードだ。

これらのジャンルは、ライトノベルの主な購買層である中高生への訴求力も極めて高く、ヒットを狙えるジャンルのトップ３には食い込んでくるだろう。

だが、あなたは本当に裏社会の実情を理解しているだろうか。

いや、真の意味で理解している人などほとんどいないだろうから、質問の仕方を変えてみよう。

あなたは裏社会をリアルに描くだけの情報量を集め、それを一流のエンターテイメントに仕上げる手腕を持っているだろうか。

ガンアクションがカッコいいから、そういった作品を書いているアマチュアは数多くいるが、そのほとんどが中身がなく、ただいたずらに拳銃をぶっ放しているだけの駄作である。

なぜそうなってしまうのか。

例えば、殺し屋になってしまった人物たちの葛藤や悲しみなどの「心理描写」がほとんどないため、裏社会に身を置くキャラクターがリアルに浮かび上がってこない。

例えば、ギャング、マフィア、ヤクザ、秘密結社の違いや組織構造を全く理解していないため、薄っぺらい世界観しか構築できていない。

例えば、数ある拳銃のそれぞれの弾の装填の仕方や殺傷力の違い、射程距離、果ては分解から再構築までにかかる時間など、武器の知識がないため、どんなにカッコいい武器が登場してもおもちゃにしか見えない。

などなど、数えきれないほどある。

キャラクターとは人間である。裏社会に身を置く人たちがどんなにクールでかっこよく見えても、人間である以上は必ず心に葛藤を抱えているのだ。

それも考えずに、生半可な知識で派手な武器を使用させ、心の内をまったく描いていない作り物のような登場人物たちがドンパチを繰り広げたところで、読者の心に響くわけがない。


本作「Phantom〜Phantom of inferno〜」は、上記したアマチュアにありがちな問題点を全て一定水準以上クリアしていることに加え、登場人物たちの心理描写が特に優れている。

本作では物語の冒頭ではただの学生だった主人公が、不幸にも暗殺現場を目撃してしまったことにより、無理やり闇の世界へと引きずりこまれてしまうといったストーリーのため、必然的に一般市民から闇の世界の殺し屋へと変貌していく主人公の描写が多くなる。

そういった部分が及第点よりはるかに優れていたことが、ヒット作になった一因だと考えられる。
裏社会物を書こうと考えている人は、是非とも本作をプレイしてみるべきだ。

そして、もし自分がこの作品を書く立場だったら、どういった知識や心構えが必要だっただろうかと自問してみるとよい。

きっと創作の難しさを再認識すると共に、裏社会物を書く醍醐味を味わうことができるだろう。

まとめ

いかがだっただろうか。

ちなみに本作は、PC版に加え、コンシューマー版としてPS2版 、XBOX360版 が発売されている。 本作のPC版が初めに登場したのが2000年のため、かなりの長き間に渡って愛されている作品だと言える。

本作は発売当初2000本しか売れず、シナリオライターがクビを覚悟したほどと言われる作品だが、真に優れた作品は必ず最後に日の目を見ると決まっている。 特にインターネットが発達した現在、そういった影の名作が発掘される確率は10年前と比べて格段に高くなっている。

あなたがライトノベル作家になれたとしても、電撃文庫などの一流レーベルの新人賞を受賞したなどの場合を除いて最初は売れない時代が続くだろう。 しかし優れた作品を描き続けていればいずれ必ず報われる。 本作の発売当初まったく無名で、今やこの界隈では知らぬ者はいないほどの一流ライターになった虚淵玄のように。

最新情報＆更新情報

▲ページトップに戻る

ホーム　|　作品紹介　|　コラム　|　リンクサイト　|　サイトマップ（近日公開）

Copyright (C) 2014 エロゲーをプレイして、ライトノベルを書こう！All Rights Reserved.　design by tempnate