あらすじ

うだるような暑さの夏の日。主人公、風見雄二は、生徒数わずか5名しかいない「私立美浜学園」に転校してくる。

訳ありで建てられたその学園に通う少女たちは、それぞれ凄惨な過去を背負っていた。

転校当初こそ、一人を除いて彼女たちと面白おかしく過ごしていく雄二だったが、やがて彼女たちの心の闇が表に現れ始め、日常を侵食していく。

チェックポイント！

「フロントウィング」10周年記念作品

「魔界天使ジブリール」のシリーズ等で有名なエロゲメーカー「フロントウィング」の作品である。

本作「グリザイアの果実」は、発売後まもなく各販売店で売り切れが続出し、一時メーカーが在庫切れを起こすほどの人気を博した。

現在では続編2編や、アニメ化、コンシューマー化も果たし、立派なフロントウィングの代表作となった。

物語前半と、個別ルートのギャップ

この作品、物語の前半ではほとんどお馬鹿なノリを終始繰り返すお気楽ゲーの様相を呈していた。

正直この部分だけ見れば凡作以下の出来だが、個別ルートに入ると雰囲気が一変。

各ヒロインのあまりに悲惨な過去が語られ、ルートによってはかなりの鬱展開に様変わりする。

ギャップを作ることは、物語を作る上での常套手段だが、その手法をうまく取り入れている。

「キャラクターを深堀り」したい人へ

過去のつらい経験があった上で、現在の性格が創り上げられたというのは、エロゲーやライトノベルにとどまらず、様々な「物語」媒体でのキャラ造りの基本だ。

それは現実世界の人間とて例外ではなく、とても性格が悪いあの人も、天真爛漫で豪傑なあの人も、かならずそうなるに至った理由がある。

本作、グリザイアの果実に登場するヒロイン5人はそれぞれ他人には決して聞かせられないような凄惨な過去を背負って生きている。

中でもヒロインの一人、天音の過去は、極限状態の中で人間の尊厳の根源に迫る内容で、人によっては吐き気を催すようなシーンもある。

そういった悲惨な過去が、彼女らヒロインの強烈な個性を形成しており、個別ルートで語られる物語には圧倒的リアリティと迫力がある。

ライトノベルにおいて一番重要なのはキャラクターであることは言うまでのないが、実際に深みのあるキャラクターを作るのは至難のわざだ。

そのキャラクターの性格や行動理念の根拠を最も端的に読者に伝える方法は、そのキャラクターの人格形成に至ったエピソードを語る以外にない。

例えば、エリート一家に生まれ、幼いころから英才教育を受けて育ったが、自由になれる時間はほとんどなく、周りの大人たちを喜ばせることだけを考えて生きてきた少女。

通常、このような環境で育った人間は大人しい性格になるが、例えばあえて明るくふるまうという方法で周囲の期待に応えてきたような場合、その癖が抜けきれていなければ外面だけは元気系キャラということになる。

しかし言うまでもないことだが、その人間の本質は心の奥深くにしまわれていることになり、言い換えれば「心の闇」と表現することもできるだろう。

キャラクターの深みとはこういうことであって、ツンデレ、ヤンデレ、クーデレといったテンプレ化されたキャラ付けのことではない（これらが悪いといっているのではなく、根拠に裏付けされたエピソードが必要ということだ）。

グリザイアの果実に登場するヒロインは、全員の過去がしっかりとしたエピソードで語られるため、キャラクター造りにおいてこれほど勉強になる作品もそうそうない。

グリザイアの果実をプレイして、一段深く掘り下げたキャラクターを書いてみよう。

まとめ

いかがだっただろうか。
ところで今回の作品紹介を読んで、こう思った人もいるかもしれない。
中高生がターゲットのライトノベルで、そんなに深いキャラ造形はいらないのではないかと。

確かにキャラクターの掘り下げが不完全でも、ストーリーと演出でヒットを飛ばしている作品はある。
しかし、別項目でも書いたように、少子高齢化の影響でライトノベルもより高い年齢層を取り入れてかなければ厳しい状況に追い込まれている。

ある程度の人生経験を積んだ読者に対しては、薄っぺらいキャラクターではそっぽを向かれてしまう。 今現在の市場状況よりも、より未来を見据えて作品作りの力を養っていくことをお勧めする。

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