あらすじ

時は戦後の昭和31年3月東京。

若い少女が手足を切断されて殺されるという猟奇的な連続殺人が発生する。

主人公の探偵、時坂 玲人（ときさか れいじ）は、警察官だったころの同僚からこの事件を調査してほしいと依頼を受ける。

事件を操作する中で、彼は謎の少女、朽木 冬子（くちき とうこ）と出会う。

物憂げな表情で彼女は言った――本当の私を探してほしい。

交錯する人間模様に、深まる謎。
果たして連続猟奇殺人の犯人とその目的とは。そして朽木 冬子（くちき とうこ）の正体とは。

チェックポイント！

Innocent Greyの作品

雰囲気ゲーという言葉がある。
それは、世界観が際立っている作品を称する言葉であるが、それは同時に「雰囲気だけで中身がない」という批判の意味も同時に含まれていることが多い。

しかし、本作に対してはその限りではない。

タイプとしては鬱ゲーに分類されるだろうが、確かな筆力で書かれたストーリーと魅力的なキャラクターで、見事に本格ミステリー作品としての地位を確立している。

特殊ギミックを盛り込んだ本格ミステリー作品

エロゲーのゲームたる所以として、選択肢の存在が良く挙げられる。

しかし本作ではそれに加えて、「証拠集め」や「推理パート」のギミックを盛り込み、よりゲーム性を増した作品となっている。

推理パートで犯人の選択を間違うと、強制的にバッドエンドへ直行したり、または必要な証拠が集められなかったことでバッドエンドになったりと難易度は高めだ。

本格ミステリーを書きたい人へ

エロゲーにミステリー風味の作品は数あれど、本格ミステリーは極めて稀である。

本作はその中でも「探偵もの」として絶対的な地位を確立している。

まず事件が起こり、主人公の探偵が人々に聞きこみをし、さらに証拠を集めて推理をするという王道の路線を踏んでいるのだ。

ライトノベルでミステリーものと言えば、記録的大ヒットを飛ばした「ビブリア古書堂の事件手帳」や「文学少女」シリーズなどが挙げられる。

特に「ビブリア古書堂の事件手帳」の大躍進に関しては、ライトノベル作家志望の皆様ならよくご存じだろう。電撃文庫が大人向けレーベルとして新たに創設した「メディアワークス文庫」の作品だ。

このレーベルの創刊の意図としては、それまで電撃文庫のライトノベルを読んできた読者たちが年齢を重ねても楽しめるようにとのこと。

近年の少子高齢化で子供の数が減り、エンタメ業界も変革を迫られている。もはや子供だけが楽しめる作品を作るだけでは通用しなくなっているのだ。 実際「メディアワークス文庫」では、電撃文庫のレーベルに多く見られるような超常減少や超能力を扱った作品はあまり見られない。

つまりどういうことか。

「大人の鑑賞に堪えうる作品」の需要が高まっているのである。しかも、その需要は今後ますます増加傾向にある。

話が逸れたが、本作「殻の少女」は間違いなく「大人の鑑賞に堪えうる作品」の一つである。

そもそも18禁なのだからという前提はさておき、その中でも対象年齢は高めと言える。その証左として、本作の主人公の年齢は30代である。主人公が「おじさん」と言われる年齢のエロゲーは、実は多くない。本サイトで紹介している作品の中でも「世界で一番NGな恋」の主人公（29歳）くらいだ。

小説家がリアリティを持って描くことのできるキャラクターの年齢は、作家自身の年齢±5歳程度とのことだ。つまり30歳の主人公をリアルに描ける作家は25〜35歳ということになる。デビューを目指すラノベ作家志望者としては決して若いとは言えない年齢だ。

もし本ページを見ているラノベ作家志望者の中に35歳以上の方がいたとしたら、ライトノベルレーベルでのデビューは厳しいと言わざるを得ないだろう。しかし「メディアワークス文庫」のような大人向けレーベルでデビューを狙うという道は残されている。今後はこちらの方が需要が上がる見込みなので、お勧めだ。

「殻の少女」をプレイして、大人向けの本格ミステリーを書いてみよう。

まとめ

いかがだっただろうか。

ちなみに本作の時代設定が昭和というのも意外な注目ポイントだ。
その時代の空気というのは、実際に経験していない者が描くのは極めて困難である。
しかし古き良き時代を舞台にした作品は大ヒットを飛ばせる可能性を秘めている。

映画で言えば「always〜三丁目の夕日〜」や、同じノベルゲームで言えば「ひぐらしのなく頃に」の時代設定も昭和である。
今の若い作家志望がもしそういった時代の作品を書きたいと思えば、その空気を感じ取るにも本作は一役買ってくれるだろう。

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