あらすじ

主人公の大崎 陸（おおさき りく）はその昔、病院で知り合った年上の女性古川漣（ふるかわ れん）から「時間を巻き戻す」ことのできる時計をもらい受ける。

その時計を使えば、いくらでも時間を巻き戻すことができる。しかし、「未来は絶対に変わらない」と彼女は言った。

本当に未来を変えることはできないのか、疑問を持った陸は時計を使い人助けをする旅に出る。

旅の途中で彼は一人の少女と出会う。

物腰柔らかな雰囲気を持った、どこか抜けているその少女は、癌に侵されていた。
彼女と親しくなっていく内に、時計を使って絶対に彼女を助けると誓った陸だったが……。

後悔しているすべての人へ贈る、時を繰り返す物語。

チェックポイント！

中島大河氏初のメインライター担当作品

今年に入って既に3本の作品をメインライターとして発表し、年内にさらに2本の発表を控えている「あかべぇそふと3」の新進気鋭のライター中島大河氏の作品である。

「できない私が、繰り返す。」は、既に本サイトでも紹介した彼の最新作「生命のスペア」と同系統の不治の病ヒロイン物の作品だ。

氏の作品をプレイしていると、ライターの趣味趣向がところどころにちりばめられていて、とても人間臭い感覚を味わうが、これがクセになる人もいるだろう。

筆者は彼の作品をプレイしたのはまだ2作目だが、既に中島氏がライターとして描こうとしているテーマが見え隠れしてきている。

小ネタにニヤリ

本作をプレイしていると、あらゆるヵ所に他の作品の小ネタが挟まれているのを発見する。

「どこかの忍者たちみたいな、安売りの天才ではないんです」といった、どう考えてもナルトの事を揶揄したセリフや、某オートメイル主人公が活躍する錬金漫画のテーマである「等価交換」の概念など。

恐らく全てメモしてまとめたら、ちょっとした小冊子が作れるかもしれないほどだ。

恐らくライターの中島氏は小ネタ大好き人間である。

”主人公とヒロインの心の交流”を書きたい人へ

さて、先にも述べたように筆者は中島氏の作品をプレイするのはこれが2作目である。
既に紹介した「生命のスペア」そして、本作「できない私が、くり返す。」をプレイする中で、筆者は中島氏の明らかな強みを発見した。
それは、「主人公とヒロインの会話シーンの巧さ」である。

この2作品で共通するのは、いずれもヒロインが不治の病に侵されているということだが、それ故に行動範囲が狭まり、必然的に主人公とヒロインが頻繁に濃密な会話を繰り広げる。

そもそもエロゲーという媒体では、風景描写やキャラクターの表情等はイベントCGで十二分にプレイヤーに示すことができるため、必然的に登場人物たちの会話に重点を置いたストーリー展開をする作品が多い。

よって現在でも生き残っているエロゲーライターは皆会話シーンはうまいのだが、中島氏はまだ新人の部類でありながら既に”会話”を武器と呼べる領域に踏み入れつつある。 ライトノベルも、一般文芸と比べてセリフの比重が高く、近年ではさらにその傾向が強まっている。

スマホゲーム等、手軽に暇をつぶせるエンターテイメントが無料で遊べる昨今では、文章による濃厚な情景描写や心理描写をする作品は手軽さがなく、時間も奪われるため段々と敬遠されるようになってきているのかもしれない。

筆者の予想では今後のライトノベルは挿絵による状況説明がさらに増え、本文ではセリフの比率が7割りを超えてくるのではないかと思っている。
これが良い傾向と感じるか、それとも本当の意味で「ライト」ノベルになってしまう事を憂うのかは個々人の価値観によるが、少なくとも面白い会話が書けない作家は今後確実に淘汰されていくだろう。

いずれにせよ、最初は「ライト」な作品を書いていたとしても注目を浴びる作家となれば、少々時間と気力を必要とする作品を書いたとしても受け入れてもらいやすくなるだろう。

「できない私が、くり返す。」をプレイして、”主人公とヒロインの心の交流”を書いてみよう。

まとめ

いかがだっただろうか。
ちなみに筆者は本作の正ヒロインのある行動に背筋が凍った。

ネタバレはしたくないので詳細は省くが、主人公に向けた手紙に「あるもの」を同封したのだ。

無論「グロ系の物体」などといった昨今使い古されたような単純なネタではない。その「あるもの」は、それまで主人公とヒロインをつないできた、二人の絆の象徴とでもいえるものであった。
ヒロインはそれだけの思い入れがあるという事を逆に利用し、その物体を少しだけ、しかし決定的に改変して主人公に送りつけたのだ。

この説明では本作未プレイの方は何を言っているのかさっぱり分からないだろうが、本作を紹介している他のエロゲーサイト様を巡回すると、ヒロインのこの行動があまりに強烈すぎたので、後を引きづって物語のラストで感動できなかったといった意見が散見された。
筆者もこのシーンを見た瞬間は、正ヒロインのキャラ崩壊を招きかねないシーンだと感じた。

本作をプレイした人とは、是非ともこのシーンをどう感じたか意見を交わしたいものだ。

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