手垢塗れの天使

あらすじ

如月嶺衣奈（きさらぎ　れいな）は駆け出しの新人アイドル。

昔テレビで見た華やかなステージに憧れ、田舎の学校を卒業後、上京して業界に飛び込んだものの、一年以上泣かず飛ばずの状況が続いていた。
焦燥に駆られた彼女が藁にもすがる思いでプロデューサーに詰め寄ると、彼はとある業界の有力者と彼女を会わせてくれるという。

あとはお前次第――

彼女は『どんな手を使ってもトップアイドルに登り詰める』という覚悟のもと、自分の身体を売るという手段でアイドルとしての頂点を狙う。

チェックポイント！

ハードコアエロゲライター？、和泉万夜の作品

和泉万夜と言えば、美少女の絶叫拷問でその名を知られるハードコアエロゲーライターである。

……とこれまで筆者は思っていたが、実は和泉氏の作風は凌辱系から純愛ゲーまで幅広い。

また、エロゲライターの中でもかなりの多作で、一部シナリオを担当した作品まで含めると100作近い作品に関わっている。

過去にエロゲーメーカーの社員でシナリオを担当していたが、現在ではフリーで様々な作品の依頼を請け負っている。

経験豊富故に非常に手練れた書き手で、そのシナリオライティングのスキルは高いレベルで安定しており、本作も安心してプレイできる。

宣伝文句に惑わされるべからず

「アイドルの枕営業」を題材としていると謳っている本作は、凌辱ゲーと思われがちだ。

しかし、実際にプレイしてみるとヒロインの強気で芯の通った生き様を確かな筆力で描いていることに驚かされる。

アイドルとしてどうしても成功したいヒロインが、身体を汚してでも成り上がろうともがく様は、「ああ、これは人生だな」と何とも言えない寂寥感を感じさせる。

”上昇志向のヒロイン”を書きたい人へ

一般的に、ライトノベルのヒロインは気が弱くて「守られ体質」の女の子が受ける傾向にある。

「とある魔術の禁書目録」の「御坂美琴」のような気の強いヒロインもいるが、アクセラレータ編で主人公の前で泣き崩れたり、主人公に恋をするあまり顔を真っ赤にするなど、ギャップを作って保護欲をそそるようなキャラ造形を行っている。

それに比べて、本作のヒロインの如月嶺衣奈は気が強い上に狡猾で、自分の利益になる人間とそうでない人間の臭いをかぎ分けるするどい嗅覚を持っている。

いわゆる「強い女性」であり、特筆すべき点は彼女は物語の全篇を通して一度もデレることもなければ泣くこともない。ギャップ萌えを狙わずに最後まで「強い女性」として描かれているのだ。

なお、本作のラストはお世辞にもハッピーエンドとは言えないが、最後に自分が幸せになるためヒロインが取る行動を目の当たりにした時、その切り替えの潔さと徹底した負けず嫌いに嘆息することうけあいだ。

運と才能の壁にぶつかり、法外な手段を使ってでも栄光を掴もうとした人間が最後にたどり着く場所はどこなのか。

多くの反対意見が予想されるが、あえて筆者は言いたい。
「手垢塗れの天使」は、一人の人間の人生を真摯に描いた作品であると。