あらすじ

人間関係は軽く薄く小さくがモットーであり、何事にもいい加減で投げ遣りな生活を送っている主人公は、特にやかましい妹がいるせいもあって女は面倒だと思っていた。

そんな主人公とは違い友人は女の子との恋愛に時間を費やし、肉体関係になることに至上の価値を求めているため、主人公に恋愛を勧めるのだが、まるで聞く耳を持たない。

ところが、ある女の子とのささいな言い争いから、なりゆきと興味本位でその場限りの関係を持ってしまう。 （LEAFホームページより）

チェックポイント！

leaf中期の名作

「WHITE ALBUM2」で知られる、エロゲーブランドleafから発売された作品

巷では「鬱ゲー」と呼ばれることもある本作だが、単なる鬱ではない「退廃感」とも言うような空気が作品全体に流れている。

5人のヒロインはかなりクセがある、というか壊れかけている人物が多いため、彼女らを好きになれるかどうかはプレイヤーの好みの別れるところだろう。

純文学系作品

「楽しくなければゲームじゃない」と思っている人にとって、本作は地雷となるだろう。

その理由はプレイしてみれば分かると思うが、地雷にかかってからでは遅い。

この作品は、プレイすることによって何かを学んだり、気づきを得たいと思っているような人にこそお勧めだ。

休日に癒しを求めてプレイするようなゲームではない。

ファンタジーとリアルのバランス感覚を学びたい人へ

この作品をプレイしていて、筆者自身大いに学んだことがある。

それは、「ファンタジー」と「リアル」のバランスの重要性だ。

よく、創作の方法は二つしかないと言われている。

それは、「嘘（ファンタジー）の中に現実（リアル）を混ぜる」こと、反対に「現実（リアル）の中に嘘（ファンタジー）を混ぜる」ということだ。

分かりやすく説明するために、本作と同じメーカーの作品「WHITE ALBUM2」を例にとってみよう。 （初めに言っておくと、「WHITE ABLUM2」は「現実（リアル）の中に嘘（ファンタジー）を混ぜる」手法で書かれた作品だ（と筆者は思っている））

「WHITE ABLUM2」の舞台は現実世界であり、異世界から美少女が降ってくる訳でもなければ、剣と魔法による戦いが繰り広げられる訳ではない。

しかしだからと言ってファンタジー成分がないと言われればそうでもない。

「WHITE ABLUM2」のダブルヒロインの内の一人、「冬馬かずさ」は世界的なピアニストである冬馬曜子の娘であり、天才的なピアニストとしての才能を有している。
彼女はとある事情からピアノから遠ざかっていたが、物語の中で再びピアノに目覚め、断腸の思いで主人公たちと別れ音楽の都ウィーンに旅立つ。

その後世界的にその才能を認められ、日本で凱旋コンサートを開き、その凱旋コンサートの密着取材を担当することになった出版社務めの主人公と偶然の再開を果たし〜......という部分は明らかなファンタジーである。 （ここで言う「ファンタジー」とは、超常現象の類といったもののみならず、「現実ではとてもありそうもないこと」といった意味合いも含む）

「WHITE ABLUM2」の面白さは、現実世界に住む登場人物たちの恋愛関係に置ける嫉妬や葛藤等のリアルで生々しい人物描写の中に、絶妙なバランスで嘘（ファンタジー）を配合しているところにあると言える。

このバランス感覚が重要であり、もしさらに主人公の春希が日本を裏で牛耳る大物政治家の息子で、もう片方のヒロイン雪菜が日本人の世界的なハリウッド女優の隠し子で〜......なんて設定までやってしまえば、 油ギトギトの豚骨ラーメンにさらにラー油とニンニクをドバドバかけるようなものだ。

要するに「嘘っぽく」なってしまう。

ではもしまったく逆の作品があったらどうだろう。

現実世界で、普通の悩みを持つ、普通の学生が、普通の恋愛をし、普通の結末を迎える。そんな作品――

それが本作「天使のいない12月」である。

正直に言ってこの作品、つまらない。より正確に言えば、エンタメ成分が徹底的に排除されている。

本作の舞台は現実世界であり、登場人物の設定もストーリー展開もかなり「フツー」である。

もちろん実際にプレイした人の中には、異論を唱える人もいるだろう。
本作に登場する5人のヒロインはいわゆる「変わった」子がほとんどであり、得に須磨寺雪緒（すまでら ゆきお）のルートだけは、少しだけリアルから逸脱するかもしれない。

しかし全篇を通して特に大きな事件は起こらないため、物語としての起伏が乏しく、ほとんどがキャラクターの内面描写による心情の変化だけで物語が閉じてしまう。

本来であればこのサイトに載せるつもりはなかったが、あまりにも現実（リアル）に偏った作品をプレイすることで逆に見えてくるものがあると感じ、ここに紹介させてもらった。

もしこの作品をプレイすることがあれば、まず「面白くない」という事を念頭においてもらいたい。

そしてプレイ後に「なぜそう思ったのか」を真剣に考え、突き詰めれば、創作における大きな気づきを得ることができるはずだ。

まとめ

いかがだっただろうか。
最後に一つ断っておきたいことがある。

本作品の紹介ページにおいて、「つまらない」「面白くない」と書いているが、それはこの作品が駄作であると言っている訳ではないということだ。

あくまで「エンタメ性が極めて低い」という意味であり、人間の真の姿を見つめ、恋愛におけるセックスの意味などを追求する姿勢からは文学性さえ読み取れる。

ライトノベルには文学性などほとんどの場合求められていない。 もしあなたがこの作品に共感し、同系統の作品を作りたいと感じた場合あなたはラノベ作家には向いていない。

是非とも純文学を書いてみてはいかがだろうか。

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